大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1034号 判決 1949年12月06日

主文

原判決を破毀する。

本件を仙台高等裁判所に差戻す。

理由

仙台高等檢察廳檢事長代理檢事宮崎三郎の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

按ずるに、本件は昭和二二年政令第一六五号連合国占領軍その将兵又は連合国占領軍に附属し若くは附随する者の財産の收受及び所持の禁止に関する件第一條違反として不法收受の事実につき起訴したものであることは記録上明らかである。そして右不法收受の公訴事実中には、不法所持の事実を包含するものであるから、不法收受事実について起訴された以上は、不法收受の事実について犯罪の証明が無いとしても、不法所持の事実について証明があれば右政令第一六五号第一條を適用し、所持罪として有罪を言渡さなければならないことは所論の通りである。記録に徴するに、被告人は少くとも昭和二二年一二月中旬頃、軍服一組、その後同月末日迄に四回に一回四五点宛計約二〇点翌昭和二三年一月初旬同一〇日頃及び同月一四、五日頃の三回に一回五、六点宛計一五、六点を買受けた事実を認めていることは明らかであるから、其日時頃右物品を不法に所持していた事実は容易に推認し得るものである。從って右物品について不法收受について犯罪の証明がないとしても、直ちに無罪の言渡しを為すべきものではなく、所持罪が成立するや否やについて審理をとげなければならない。そして所持罪は不法所持という現実の事実によって、成立するものであり、且つ所持の開始が数回にわたる場合でも必ずしも所持開始の回数と同数の所持罪が成立するものでなく、所持が一個なりや否やは社会の通念によって決すべきものである(昭和二三年(れ)第九六五号同二四年五月一八日最高裁判所大法廷判決参照)。原判決は公訴にかかる物品について不法收受罪の併合罪としての証明がない点にのみ着眼し、不法所持の点については僅かに被告人が昭和二三年一月二八日頃警察の取調当時コットンのズボン下二枚と羅紗外套一着を所持していた点についてのみ説示したばかりで、其余の物品についての不法所持に関しては何等の説示をしないことは未だ審理をつくさざるものであるばかりでなく、昭和二二年政令第一六五号第一條の解釈を誤りたる違法ありといわなければならないから、論旨は理由がある。

よって旧刑事訴訟法第四四七條同第四四八條の二により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例